2023年8月20日 正式最終全体原稿
フランス気動車に魅せられて
PARIS近郊で近代型気動車、X73500の追っかけ乗車を楽しみ、歴代の気動車をＯスケールで模型製作。
佐野 衡太郎
巻頭写真：今までフルスクラッチ製作した、全７気動車勢ぞろい
各線路、先頭側（右側）に並んだ新作の気動車群（３機種）。それ以外（後方の４機種）は第一次製作のグループ。
手前、１番線・線路上、向かって右から
★新作：CGC社製PLM鉄道向け気動車（1932年～引き渡しまたは運用開始）
☆旧作：RENAULT AEKー2（1967年～引き渡しまたは運用開始）
２番線手前から
★新作：RENAULT製
X4200 PANORAMIQUE（1959年～引き渡しまたは運用開始）、
☆旧作：ALSTOM-DDF-LHB製 X73500（1999年～引き渡しまたは運用開始）
3番線手前から
★新作：De Dion
KG-3（1932年～シリアのダマスカスからダルア間で運用開始）、
☆旧作：MICHELIN MICHELINE 23（1936年～引き渡しまたは運用開始）
4番線
☆旧作：BUGATTI WR TRIPLE（1936年～引き渡しまたは運用開始）
※ ☆旧作とあるものは「鉄道模型趣味」NO.813号（2010年9月号）にて模型製作を発表済。
序文：2006年、まだOゲージ模型製作の経験が浅いころ、初めてX73500の模型を作りました。それ以来多様な
デザインや技術的特徴などに惹かれ、フランスの気動車に思い入れを深くしてきました。
その間、X73500の実車を追いかけて渡仏を繰り返し、フランスの気動車についての文献も揃えて、都合7機種の模型を製作するに至りました。
本稿ではその間、フランスへX73500を追いかけた旅、及び過去発表した４機種（鉄道模型趣味 813号）以後新たに製作した3機種の模型製作についても紹介させていただきます。
写真：田んぼの中のX73500
第１部：X73500実車を追いかけて
１．X73500をフランス各地に追いかけ、実車の旅
序
ラジオ講座でフランス語を聞きかじり、安いパック旅行（随行員なしのほったらかしツアー）で2005年6月、PARISからミュルーズの鉄道博物館に向かう車窓からふと見かけた斬新なデザインの気動車に衝撃を受けました。
帰朝後インターネットで調べたらX73500という気動車であることがわかりました。当時鉄道模型製作経験が浅かったにも関わらず、限られた資料をもとに初めてOゲージでこのX73500をフルスクラッチ製作しました。
X73500は現在もフランス国内のローカル線で運行されている形式で1999年から2002年にかけ300両以上が作られ（LE MATERIEL MOTEUR DE LA SNCF:2003年版/ La vie
du Rail社刊）、数は減っているかも知れませんが、大半が現役就航しています（2020年時点で300輌以上運用中：詳細はX73500で検索）。
新しい車両だけに、インターネットで走行中の写真などを数多く見ることができます。
フランスでは、ＨＯゲージの模型も製品化されています。
その後このX73500が各地方ごとに色彩デザインが異なることにも興味を持ち、それらが運行されているPARIS近郊の各地を追っかけ乗車する一人旅を楽しむことになり、私の気動車への思い入れが深まっていきました。
このX73500気動車の乗車体験は添付地図のように、ローカル地域を中心に各地に及ぶことになりました。
運行ダイヤはまばらで、2，3時間に一本というダイヤです。なるべく身軽に行動したかったので、早朝暗いうちにPARIS場末の安宿を出て、TGVまたは在来列車などでX73500の運行エリアに向かい、Ｘ73500への乗車・撮影後、夜遅くPARISへ戻るという行動を繰り返しました。
訪問したところは、ドイツ国境近くのストラスブールとアミアン（2006年11月）、オウセールとクラバン・バザルネ（2008年4月）、大西洋沿岸部の保養地オルガットと、ディブ・カブール（2008年4月）などです。
地方エリアでの鉄道経営環境はフランスでも例にもれず厳しい状態で、私が訪問した時も無人駅が目立ちました。到着時刻が近づくと、近所からおばさんが来て発券している無人駅もありました（X73500では車内の自動販売機でも切符が買ます）。また一部のダイヤは鉄道ではなく、バス運行となっているところもあり、時刻表にバスの図柄で記載されていました。
これらのエリアの時刻表はルート別にパンフレット形式で駅に備え付けの架台にあり、無料なこともあって、お土産代わりにほとんどのものを持ち帰りました。
こんな気動車X73500の追っかけを楽しみながら、自宅の工作台ではフランス歴代の特徴的な気動車をOスケールでフルスクラッチ製作し、機種数も７機種となりました。多彩な形態やデザインは運転会でも大いに楽しめることになりました。
本稿では、以上のX73500運行エリアの訪問記と未発表の新作気動車模型３機種についての製作記も紹介させていただきます。
◆X73500気動車の追っかけに訪問した各地：白ラベル添付の●印の駅
これ以外にドイツとの国境近くのストラスブール駅構内での撮影、鉄道博物館のあるミュルーズ駅でもX73500 の入線を確認しました。
添付地図
２．ストラスブールへ：2006年11月
PARIS（EST駅）⇔ストラスブール。
駅構内売店で買ったバゲットで昼食も摂りながら、一日じっくりX73500を観察し、撮影も思い切りできました。石つくりの歴史ある駅舎に佇む近代的なデザインのX73500の姿は惚れ惚れするシーンでした。
ドイツとの国境近くなのでドイツの機関車も入線し、大好きでフルスクラッチ製作もしたフランスELのBB26000などもじっくり観察できました。 写真1～5
また、市内に出てデザイン的に話題になったトラムにも体験乗車しました。
2023年8月20日 正式最終全体原稿
フランス気動車に魅せられて
PARIS近郊で近代型気動車、X73500の追っかけ乗車を楽しみ、歴代の気動車をＯスケールで模型製作。
佐野 衡太郎
巻頭写真：今までフルスクラッチ製作した、全７気動車勢ぞろい
各線路、先頭側（右側）に並んだ新作の気動車群（３機種）。それ以外（後方の４機種）は第一次製作のグループ。
手前、１番線・線路上、向かって右から
★新作：CGC社製PLM鉄道向け気動車（1932年～引き渡しまたは運用開始）
☆旧作：RENAULT AEKー2（1967年～引き渡しまたは運用開始）
２番線手前から
★新作：RENAULT製
X4200 PANORAMIQUE（1959年～引き渡しまたは運用開始）、
☆旧作：ALSTOM-DDF-LHB製 X73500（1999年～引き渡しまたは運用開始）
3番線手前から
★新作：De Dion
KG-3（1932年～シリアのダマスカスからダルア間で運用開始）、
☆旧作：MICHELIN MICHELINE 23（1936年～引き渡しまたは運用開始）
4番線
☆旧作：BUGATTI WR TRIPLE（1936年～引き渡しまたは運用開始）
※ ☆旧作とあるものは「鉄道模型趣味」NO.813号（2010年9月号）にて模型製作を発表済。
序文：2006年、まだOゲージ模型製作の経験が浅いころ、初めてX73500の模型を作りました。それ以来多様な
デザインや技術的特徴などに惹かれ、フランスの気動車に思い入れを深くしてきました。
その間、X73500の実車を追いかけて渡仏を繰り返し、フランスの気動車についての文献も揃えて、都合7機種の模型を製作するに至りました。
本稿ではその間、フランスへX73500を追いかけた旅、及び過去発表した４機種（鉄道模型趣味 813号）以後新たに製作した3機種の模型製作についても紹介させていただきます。
写真：田んぼの中のX73500
第１部：X73500実車を追いかけて
１．X73500をフランス各地に追いかけ、実車の旅
序
ラジオ講座でフランス語を聞きかじり、安いパック旅行（随行員なしのほったらかしツアー）で2005年6月、PARISからミュルーズの鉄道博物館に向かう車窓からふと見かけた斬新なデザインの気動車に衝撃を受けました。
帰朝後インターネットで調べたらX73500という気動車であることがわかりました。当時鉄道模型製作経験が浅かったにも関わらず、限られた資料をもとに初めてOゲージでこのX73500をフルスクラッチ製作しました。
X73500は現在もフランス国内のローカル線で運行されている形式で1999年から2002年にかけ300両以上が作られ（LE MATERIEL MOTEUR DE LA SNCF:2003年版/ La vie
du Rail社刊）、数は減っているかも知れませんが、大半が現役就航しています（2020年時点で300輌以上運用中：詳細はX73500で検索）。
新しい車両だけに、インターネットで走行中の写真などを数多く見ることができます。
フランスでは、ＨＯゲージの模型も製品化されています。
その後このX73500が各地方ごとに色彩デザインが異なることにも興味を持ち、それらが運行されているPARIS近郊の各地を追っかけ乗車する一人旅を楽しむことになり、私の気動車への思い入れが深まっていきました。
このX73500気動車の乗車体験は添付地図のように、ローカル地域を中心に各地に及ぶことになりました。
運行ダイヤはまばらで、2，3時間に一本というダイヤです。なるべく身軽に行動したかったので、早朝暗いうちにPARIS場末の安宿を出て、TGVまたは在来列車などでX73500の運行エリアに向かい、Ｘ73500への乗車・撮影後、夜遅くPARISへ戻るという行動を繰り返しました。
訪問したところは、ドイツ国境近くのストラスブールとアミアン（2006年11月）、オウセールとクラバン・バザルネ（2008年4月）、大西洋沿岸部の保養地オルガットと、ディブ・カブール（2008年4月）などです。
地方エリアでの鉄道経営環境はフランスでも例にもれず厳しい状態で、私が訪問した時も無人駅が目立ちました。到着時刻が近づくと、近所からおばさんが来て発券している無人駅もありました（X73500では車内の自動販売機でも切符が買ます）。また一部のダイヤは鉄道ではなく、バス運行となっているところもあり、時刻表にバスの図柄で記載されていました。
これらのエリアの時刻表はルート別にパンフレット形式で駅に備え付けの架台にあり、無料なこともあって、お土産代わりにほとんどのものを持ち帰りました。
こんな気動車X73500の追っかけを楽しみながら、自宅の工作台ではフランス歴代の特徴的な気動車をOスケールでフルスクラッチ製作し、機種数も７機種となりました。多彩な形態やデザインは運転会でも大いに楽しめることになりました。
本稿では、以上のX73500運行エリアの訪問記と未発表の新作気動車模型３機種についての製作記も紹介させていただきます。
◆X73500気動車の追っかけに訪問した各地：白ラベル添付の●印の駅
これ以外にドイツとの国境近くのストラスブール駅構内での撮影、鉄道博物館のあるミュルーズ駅でもX73500 の入線を確認しました。
添付地図
２．ストラスブールへ：2006年11月
PARIS（EST駅）⇔ストラスブール。
駅構内売店で買ったバゲットで昼食も摂りながら、一日じっくりX73500を観察し、撮影も思い切りできました。石つくりの歴史ある駅舎に佇む近代的なデザインのX73500の姿は惚れ惚れするシーンでした。
ドイツとの国境近くなのでドイツの機関車も入線し、大好きでフルスクラッチ製作もしたフランスELのBB26000などもじっくり観察できました。 写真1～5
また、市内に出てデザイン的に話題になったトラムにも体験乗車しました。
写真１
ストラスブール駅で、初めてじっくり対面したX73500気動車。
2006年11月 古い石作りの駅舎との対比が美しい。
写真３ このラジエーターグリルは工作の楽しみでした
写真４ TER（地域間急行）の運行地域によってカラーリングが異なる。
写真５ ドイツ国境に近いため、独仏両国の車両が並びます。
左は大好きで、フルスクラッチ製作もしたフランスのBB26000EL
３．アミアン、モレイユへ：2006年11月
PARIS（NORD駅）↔AMIENS（アミアン）↔MOREUIL（モレイユ）
MOREUIL→AMIENSへの帰路、ダイヤと走行車種を確認して初めてX73500に乗車。
最高時速が140Kmの車両だけあって、結構なスピードで飛ばして走り、低い座席から見えた麦畑が車窓の
すぐそばを飛んでゆくように見えたことが印象的でした。 写真6～10
モレイユ駅は駅管理を担当の家族一家が駅舎に接続した建物に住んでいますが、基本的には無人駅です。
写真6 駅舎とそこで働く家族の住居が一体 写真7スタッフが居なかったら、車掌に聞けとの案内板
写真8 到着間際、どこからともなくお客さんが集まってきました。 写真9 無人券売機
４．オウセール、クラバンバザルネへ：2008年4月
PARIS（BERCY（ベルシー）駅）↔AUXERRE（オウセール）↔CRAVANT BAZARNE（クラバン バザルネ）間を往復。写真11～16
AUXERRE↔CRAVANT BAZARNE間でX73500に乗車。
PARIS南東部近郊の平坦な地方で、のどかな田園風景の中X73500が誰もいないホームに佇んでいる光景の写真を見て、これは行かなくてはとの思いを抱きました。
PARISのターミナルの中でもローカル線用発着駅、初めてのBERCY駅に向け暗いうちにホテルを出ました
。乗換駅AUXERREで、この区域を走るX73500の特徴的カラーリング（バニライエローと赤の
ツートーン）に遭遇。目的駅のCRAVANT BAZARNEまでの乗り換え時間がたっぷりあったので、ホーム
全域を駆け回り、贅沢な独占撮影会を楽しみました。
CRAVANT BAZARNE駅は、屋根の無いホームで、ピアスを着けた“あんちゃん風”の運転手がX73500の
窓から顔を覗かせていました。２輌の連結を解除して単行で更なるローカルエリアのAUTUN（オータン
に向かっていきました。
帰りのX73500発車まで、これまたたっぷり時間がありましたので、時が止まったような駅構内をゆったり
と散策、撮影。
帰路のX73500運転手に、持参した珍しい色彩デザインのX73500の写真を見せ、これは走っていないのか
と尋ねたら、イベントの時だけだよと教えてくれました。模型でこのデザインのX73500を作ってみたい気
がしていますが。運転室に入れてもらって、写真も撮ってもらいました。
写真12 クラバン・バザルネ駅の佇まい
写真14 CRAVANT BAZARNE駅構内の線路状況。AUTUNに向かうX73500。
５．海浜のリゾート地、HOULGATE（オルガット）、行き止まりのDIVES CAVOURG（ディブ・カブール）へ：2008年4月
PARIS（ST.LAZZARE（サンラザール）駅で切符を買う時、私が“オウルガット”と発音したら、“オルガット！”と訂正されました。急行列車でTROUVILLE DEAUVILLE（トロウビル・ドウビル）まで行き、そこから３両連結のX73500（３輌まで統括制御できると文献には書いてあります）に乗車。写真15
写真15 TROUVILLE DEAUVILLEで、X73500に乗り換える。発車前の一服。
このエリアは夏場のバカンスシーズンに賑わうところで、臨時ダイヤによる増発があります。
しかし、訪問した時はオフシーズンのため、ダイヤが極端にまばらでした。HOULGATEの先、終点のDIVES CABOURGに向けて砂浜沿いの線路を走るところがあって、ここをぜひ撮影したいと思っていました。帰りの列車があることを祥細にダイヤの確認をして、半分は賭けの気持ちで砂浜の線路添いにあった電話ボックスで小雨を避けながら、シャッターチャンスを待ったおかげで撮影できました。写真16
写真16 砂に埋もれた線路を行く
写真17 瀟洒な建物が並ぶHoulgateの町
HOULGATE駅は大分前から無人駅になっているようで、終端のDIVES
CABOURGからの帰路、車内で見かけた人は乗車していた運転手とお婆さん一人だけでした。
切符は車両の中に取り付けられている自動販売機でも購入できるシステムを知りませんでした。無人駅のHOULGATEで切符を買えないまま、DIVES CABOURGで下車。結果的に無賃乗車になりました。
帰りの乗車券はHOULGATEからPARISまでの分は購入済なので、HOULGATEまでの帰路の切符をきちんと購入し（発車間際にどこからか、マダム駅員が来て券売作業をしていました）往きの無賃乗車分が1.2ユ―ロだったことを知りました。
第2部 フランス気動車に関する文献
日本の洋書専門店でフランスの気動車の歴史に関する立派な文献を見つけ、渡仏時ミュルーズ博物館での購入分も含めて全5巻（総ページ1500ページ以上）を入手することができました。写真18
日本では１冊１万円以上しましたが、フランスでは7000円程度で買えました。
この文献でさらにフランスの気動車についての興味が深まり、今まで都合７車種を模型化することになりました。
実車乗車体験と併せて、フルスクラッチ製作での模型趣味をより深めるきっかけともなりました。
そして、フランスの気動車メーカーにはRENAULT（ルノ－）、MICHELLIN（ミシュラン） 、BUGATTI（ブガッティ）などの自動車関連メーカーが多く、鉄道関係だけでなく自動車関係の趣味人やグループともご縁ができて私にとって大きな糧ともなりました。
第３部 模型製作について
1．CGC社製、PLM鉄道向け気動車製作の概要
CGC写真１ 0.5㎜真鍮板から切り抜き CGC写真2 平面構成のデザインがくっきり
CGC写真3 １台（上）は台車回転可 CGC写真4 １台のみ扉開閉可能としてみました。
CGC写真5 完成。 CGC写真6 運転手も2人乗っていたようです。
２. De Dion社製 KG3 シリア向け気動車製作の概要
動力は先頭車の後部一輪のみ駆動。照明電源は床下に設置のUM4乾電池から、付随車にもマグネット式コネクターで通電。
KG3写真1 OJゲージのレールに。屋根柵は荷物積用？ KG3写真2 資料本と一緒に
KG3写真3 室内、女性はブブカ着用。窓ガラスは半開き
３．SNCF X4200 気動車、RENAULT製 通称PANORAMIQUE（パノラミック）の製作
以前から温めていた企画を実現することにしました。フランス、RENAULT（ルノー）社製、X4200（SNCF）気動車。
1959年運用開始の”PANORAMIQUE”と呼ばれていた気動車です。
フランスでは非常に有名で、HOでのBRASS製品（BRASSLINE社製）やプラ製のものなども市場にでています。
OゲージもBRASSで製品化されるという噂があったので、フルスクラッチ製作対象候補からはずしていました。しかしその後、OゲージBRASSでの製品化計画は無いと分かったので、スクラッチ製作に着手しました。車輪も手持ち在庫の中のφ21.5㎜（厳密には、実車径×1/43.5=20.5mm）を使うことで折り合うことにしました。
１．実車の主な諸元 運用開始開始 1959年2月
ディーゼルエンジン（出力800馬力）に依る発電でモーター駆動
最高速度 130km/h
長さ 27.77m
座席数 1等 44、2等 44席
車両重量 54t
◆参考資料 RENAULT,LE MATERIEL FERROVIAIRE(Michel Grannec著)、E・T・A・I社刊
２．模型製作
２.１ 動力伝達機構と台車の製作
単独走行の比較的軽量の車両であることを考え、各台車の一軸づつをモーターライズすることで進めます。最低限のギア配列により伝達ロスを減らして、シンプルな方式とすることにしました。モーターは12V仕様の秋葉原で入手したジャンク品です。
全車軸の軸受けに630ベアリング（外形6，内径3㎜）を装填し、2軸間のイコライジングは省略しました。写真１，２
牽引力試験で約2㎏の重りを乗せて、スムーズに動くことを確認。写真３
ブレーキシューを作ります。4㎜角パイプをもとにブレーキシューの支持部を16個作ります。角パイプの一辺側を切除するため、16個まとめて半田付け固定し、フライスで切削。写真４
ブレーキシューは3㎜角のムク真鍮材をガスコンロで焼き鈍してからパイプに巻き付けて車輪径＋2㎜程度の円形に丸め、切断、整形し、支持体の内側に半田付け。写真５
車体本体の重量を受けるスプリング支持体を台車の中央に取り付け。中央のパイプ材の外側にダミーのスプリングをかぶせる予定です。独特な形態の台車なので、各部品製作にも工夫が要ります。 写真６、７
１台車当たり８個のブレーキシューも取り付け、各車輪からの集電のブラシも取り付け。
集電ブラシはいつもの0.4㎜厚の洋白帯板。取り付けベースはガラエポ基板に半田付けです。
ガラエポ基板そのものは台車真鍮ベースに接着。ガラエポ側を接着しているので、絶縁状態になります。
車体上回り全体の重量を支えるサスペンションは実車の写真でもかなり太いコイルバネが使われています。
手巻きで自作を試みましたが、綺麗にコイル状に巻けないため、ホームセンターで出来合の鉄製バネを探し、焼きが入っているのでガスコンロであぶって焼き鈍し、コイル間を引っ張って少し延ばして使っています。もちろんダミーですが。
その他、台車前方にブレーキ作動用の圧縮空気入れタンクらしきものなど、YOUTUBE画像から拾って作り込みました。写真８，９、１０
車体上回りには、各台車中央に取り付けた角パイプ製の梁を介して
固定します。この梁はカーブ対応で回転可能としてあり、片方は中央
１点受け、もう片方は台車幅近くの２点受けとし、全体として３点支持
受けとしました。
台車をひっくり返した状態です。写真11
youtube画像からこんなシーンが見つかり、台車製作の貴重な情報となりました。写真12
台車だけ錆びないうちに先に塗装しておきます。塗装前の分解をすると、結構な部品点数。写真13
塗装、再組み立て後です。走行チェックもOKです。もう分解はしたくありません。この後は上回りの製作に集中できます。写真14
２．２ 上回りの製作
２．２．１ 上回り車体の木型製作
小田急VSE製作（とれいん誌 NO.460 2013年４月掲載）以来、３次元曲面の車体を作るための、私にとって常套手段となった木型作りからスタート。なるべく木材の削り量が少なくて済むように、1/43.5の縮尺図面をあてがって複数の太さの木材（柔らかい南洋材）を組み合わせ、母材としました。
固定には接着剤を使わず、木ネジで行っています（製作後の廃棄で分解しやすいように）。写真15
模型寸法の図面を重ねてみます。写真16
真横の形状の罫書を描きました。写真17
厚さ70㎜もあるので、のこぎりをひくのが大変です。結合の木ねじをいったん外して、個別に切断して切断後再度木ネジで組み立て。写真18
まずは2次元形状を出しました。
その後の３次元曲面への加工は、アナログ的な感覚で＃４０布ヤスリを使って、ゴシゴシと実車写真も見ながら追い込んで行きます。
写真は愛用している紙、布ヤスリ用のフォルダーです。いつものやり方ですが、しばらくは木工加工に精出します。
使用やすりは、主に40番です。
先端の形状はこんなゲージも使いながら追い込んで行きます。単純な形状に見えましたが、写真から形状を読み込んで行く成形作業は難しいものでした。写真21
一晩置いては改めて観察し、形状を手直しすること数回。完成としました。写真22
２．２．２ 上回りの製作
◆２階客席両端曲面部分の製作
素材の0.4㎜厚真鍮板を張り付ける前準備として紙で型取りします。
展開して真鍮板に転写（スプレー吹き付け）。写真23、24
真鍮板を切り抜き、木型に押しつけながら釘止め。写真25
隙間は細く切った真鍮片を挟んで半田付け。写真26
仮止めの釘を外して。写真27
裏側は後で短冊状の板を半田付け補強します。写真28
中間部の2次元形状のかまぼこ形の部分を接続しました。写真29
◆両先端の曲面形状作り
前述の２階席両端の曲面と同様の方法で進めました。
隙間部分には別材料で作ったものをパッチワーク風にはめ込んで半田付けしました。写真30，31
先端下部はアンダーカット状態です。
先端のお面が揃いました。 写真33
２．３ 上回り全体の組み立て
側面の真鍮板もすべてつながった状態で木型から上に向けて抜く時に、先端の
アンダーカット部分が引っ掛かります。
そのため、木型の先端部をカットしておきます。
前後のお面と中間部とをつなげた後、真鍮板のワークを木型から上方に抜く準備ができました。シナリオ通りに進むことを願って。写真34
いくつかのユニットを組み合わせることで全体の形ができました。車体裾に、長い車体側面の平面性を保持するために、内側に4㎜角パイプを接着。熱変形を避けるため、半田付けでなくエポキシ接着剤で固めました。写真35
また、曲面形状の内側の接合部には帯板を裏側から半田付けすることで強度を維持すると同時に、形状仕上げで外形をヤスリで削り出すときの削り代の余裕を確保しました。その他、細かいところの凹凸を矯正した上で全体形状ができあがり、これから最終整形作業業に入ります。写真36、37
２．４ 窓開け加工
今回は複雑な曲面の車体に数多い窓開けが必要で、形状的に糸鋸だけで加工はできませんので厄介な作業となります。
ここでは私にとって、初めての手法を試すことになりました。
ドリルで窓形状に沿って多数の穴を開け、それらの穴の間をカッターで切断してつなげる、というやり方です。
候補となったカッターの刃です。写真38
小径丸鋸刃は厚さが0．2㎜、ダイヤモンドミニカッターは0．6㎜。
前者の方がが切れ味が良かったので、それを選択。使用時はルーターに取り付けます。写真39
写真40のようにドリルで穴を開け、それらのつながり部分を切断してゆきました。ルーターのパワーが弱く、下穴を開けないとトルク不足でカッターの刃が食いついて止まってしまいます。 縦の縁は糸鋸でカットできました。
写真40
全部の窓部を切り抜き、ヤスリ整形完了。SＮＣＦ 241ＥＴＡＴ ＳＬより長い車体です。写真41，42、43
2階席と先端の窓部が3次元曲面になっていますので、窓ガラス作りが大変そうな予感がしました。
実物の窓ガラスは、Ｈゴムを介してはまっていますが、最近の車両のそれのように車体と同面でなく、ガラスは車体外面より引っ込んで
います。この表現を模型ではどのようにするか検討を要しました。
窓ガラス（0.5mmアクリル板）を車体内側から窓枠内側に接着し、外側から窓枠内側に沿って黒い金属線をHゴム表現として接着するという、今までにやったことのない方法をとることにしました。
４．窓ガラスの製作
窓ガラスは、熱湯でアクリル板を成形する方法で作りました。あらかじめ、本体上回りの窓部の形状をトライ＆エラーで真鍮板に型取りして作った3次元曲面形状マスターに0.5㎜厚のアクリル板を挟み、熱湯中で成形しました。
写真45
２階席の前後両端部の窓コーナー部は複雑な3次元曲面です。
熱湯中で熱変形させてこんな形に整形できました。写真46
車体内部から窓部にあてがって形状確認。
2階席の左右窓ガラスは2次元曲面、シリンドリカル、なので、近い形状の円筒形の
空き缶を使ってアクリル板を加熱成型させました。写真48，49
空き缶の型から外すと、こんな風にシリンドリカルに成型できました。これを適度な寸法で切断して側面窓ガラスと
します。
すべての窓ガラスを作りました。写真51
3次元局面の部分は難しい加工でした。
組付けは塗装後に、窓枠より一回り大きな窓ガラスを車体の内側から接着取り付け、窓枠内側に沿って外側から黒色染めのアルミ線を窓枠内側にフィットするよう現物合わせで曲げ加工したものを接着する予定です。
手前はすべての窓ガラスを、部位を間違えないようにするため、実配置に沿って整理し、紙に並べたものです。
本体すべての塗装後に窓ガラス接着とＨゴム取り付けを行いますが、これまた厄介な作業を覚悟しています。
５．座席の製作
上階の客席椅子を、2㎜厚檜板を素材として作りました。上階の下はエンジンと発電機の機械室になっています。
ヘッドレストは別部材で作って接着。アームレストは金色塗装仕上げの
1㎜径のアルミ線を使って作り接着。ヘッド・レストは仕上げで白色に塗り
分けていましす。写真53
上階席の片側に椅子を並べて見ました。 写真54
１階席の座席は、２階席のものと比べ隣同士の席の間の仕切りの肘受けが無いだけで、他は同一形状で作りました。
６．その他ディテール作り
各部の細かいところを作り込みます。前面からの空気取り入れ口を写真を見ながら作りました。56
塗装後に車体オデコに接着するつもりです。写真56，57
リンクカプラー、ジャンパー栓、電気接続のソケット、なども別部品として作りました。すべて塗装後に接着取り付けとなります
リンクカプラー、ジャンパー栓、電気接続のソケット、などなどを別部品として作りました。すべて塗装後に接着取り付けとなります。写真58
前面、リンクカプラー上から猫のヒゲ状に左右に伸びているオデコから左右につながるラインは、洋白の帯材を半田付け。
製作中、もっとも難しい作業でした。塗装後に帯部分だけ塗装を剥がして洋白の素地を出すつもりです。写真58
７ 室内灯と配線
室内灯の配線。銅箔コートされたエポキシ板を室内天井に取り付け、そこにLEDを接着取り付け。電源は床下にＵＭ３、2本を取り付け。ＬＥＤは20ｍＡ消費電流タイプのチップが3個（60ｍA ）入った高輝度タイプを採用。写真59は点灯状態。
８．塗装
車体にはその局面を形成するため、半田の盛り付けを各所に行っていて、それらの酸化・腐食を防ぐためにも早めに保護としての塗装を行っておきます。塗料はいつものアクリルラッカータイプの市販スプレーを採用。
アイボリー色を先に塗装し、後でマスキングの上、赤でのライニングなど行います。
奥まった部分の塗装には、スプレーの霧がかかりにくいので、刷毛で前もって塗っておくと全体の塗りのバランスを取りやすいです。写真61、62
機関室への入り口ドアを後追いで作り、塗装後取り付けのネジ留め方式としました。写真63
前面の顔も塗装されてすっきり。写真64
9．運転席ディテール
運転席は前後両側にあります。手持ちの小物部品を寄せ集めて、マスコンなどを作りました。ちょっと派手になって、カフェでくつろぐ風景みたいになってしまいましたが、模型だからちょっと派手気味で良しとしました。
写真65，66
１０．マスキング塗装
先ずは屋根上のグレーの塗り分けです。紙でマスキングパターン作成。それを軽く張り付けてグレーを吹きました。
写真67
側面のグレー塗装用のマスキングです。写真68
ＳＮＣＦのＬＯＧＯはインターネットから拝借し、縮小していつもの裏面に粘着層が付いた極薄のプリンター用紙にプリント。写真69の上半分
写真69の下半分の格子状パターンは側面の機械室の通気口表現用です。グレーと赤の二色に掛かっているため、2色でプリンター印刷。
アクセントになる赤のラインのためのマスキングを行い、吹きつけ。たった2本の赤ラインのための大げさなマスキングでしたが、ぐっと引き締まりました。写真70、71
太さに若干のむらがありましたので、筆でレタッチを行いました。
先頭部を含めた前後部の赤ライン、裾部の幅広の赤帯の塗り分け塗装などのマスキングを実施。写真72、73
前後先端部周辺のマスキングはさらに複雑です。写真73
無事吹きつけ塗装での各部赤ラインも塗れて、マスキングのテープを剥がし終えました。マスキングテープはそのまま貼り付けず、わざと適当なところに数回、貼って剥がしてを繰り返して、粘着力を弱め、剥がすときの下地塗装
の剥がれを防いでいます。写真74、75
乗降用ドア、機関室のドアなども本体の赤ラインに合わせる形でマスキング塗装。写真76
。
おでこの通風口部品は接着取り付け。ＳＮＣＦのＬＯＧＯも貼り付け完了です。写真77
機械室の通風口の細かいグリル・パターンは、接着シール紙へ黒とグレーでパターンのプリントをし、シールを車体に貼り付け。その後、下部全体の赤帯部と赤がつながるようにグレー仕上げ部をマスキングの上、下部の赤スプレー塗装をグレーの上から重ねて行っています。 写真78
窓ガラスの取り付けは押さえの真鍮の爪（本体へ半田付け）と接着によります。特に二階席コーナー部の、3次曲面でカーブしている窓ガラスの取り付けには手間取りました。
窓ガラスの周縁部は黒色のＨゴム風の部品も取り付け予定です。この作業も難渋しそうです。
１１．窓ガラス入れ
車体側の内側にエポキシ2液混合の接着剤を車体内側に塗布。
接着剤がガラス有効面にはみ出ないよう、細心の注意を払い塗布し、車体内側から窓枠周縁部に窓ガラスを接着。
1㎜程度の接着剤のはみだしは、外側からはめるHゴム風の黒色針金フレームに隠れるのでOKですが、細心の注意が要りました。
色の塗り分けの境目のはみ出しなどの修正レタッチも行い、窓ガラスも入りました。写真80
１２．Hゴム表現．
Hゴムの表現は今回の製作中の難題の一つでしたが、何とかこなせました。
写真81の様な3次元曲面では、アルミ針金を3次元的に曲げ加工し、ピッタリ合わせ込むのが大変でした。
この部材製作方法は当初より考えていた方法でトライ。
それは、φ1ミリの黒染色したアルミ線を採用し、窓形状に合わせてトライ＆エラーを繰り返して曲げ加工を行って各窓内側にフイットするよう製作しました。
この手芸用のアルミ線は金色なども含めて各色あり、ペンチの先で折り曲げても色が簡単には剥がれず、曲げやすいなど貴重な素材です。
固定はエポキシ接着剤を爪楊枝の先で塗布し、はみ出さないように慎重に取り付けました。
この辺は現代車両のＨゴム表現の工作の方が楽です（ガラスの外周部のHゴムに相当する部分を残してマスキングし、全体を厚目に黒塗装、乾燥後にマスキングテープを剥がせば、ガラス周縁部が塗膜の厚みの効果も含めてHゴム風になります）。
しかし、この工作の結果、窓周りの黒による引き締まりが出て、好ましい状態になりました。写真81、82、83
１３．乗客の配置
完成に向けて乗客の準備です。水性エナメルで、「肌色」の既製品が手に入らないので、いつも「肌色」作りから始めています。そして、肌色⇒髪の毛⇒靴⇒洋服、の順番で毛細筆で塗りました。
今まで500体は塗ったでしょうか、市販のフィギュアは種類が限られるため、そっくりさんの客も大勢居ます。新顔の客も欲しいところですが、服の色を変えたりして車内に適当に散らばって着席してもらっています。
このようなフィギュアの金型を造ってまで行うビジネスは、特にOスケールの世界では貴重で。今後も継続して商品の供給がされることを願うところです。写真84，85、86
2日がかりで、乾燥させながら塗りきりました。塗料はすべて水性のエナメルです。写真86
１４．室内灯、ヘッドライト類の取り付けと配線。
室内灯は３チップタイプの高輝度LEDを８個配置し、電源としてはUM3乾電池2本で点灯。写真87
また、前照灯もUM3乾電池2本の別電源として、進行方向に合わせてスライドSWで切り替えるという原始的な方法です。Oスケールは大きく、簡単にレールを敷いて通電走行を楽しめませんので、机上で簡単に照明点灯状態を演出し、悦に入るというのが私の方針です。これは電気、電子回路の知識が乏しい小生の言い訳でもありますが。
以前造っておいた座席を床板に並べ、フィギュアも配置。写真88
その他表記をＰＣで作り、粘着層付きの薄いシール紙にプリントし、各所に貼って完成です。
片側だけに運転手を配置。隣で子供が万歳して喜んでいます。
2階席はヘッドレストに白いカバーを付けました。
以上は正式原稿です。
2023年8月20日 佐野 衡太郎